水産資源の乱獲を防止する方法の一つとして、総漁獲量を制限するという方法がある。その総漁獲量の上限値のことをTACという。TAC管理については沿岸国が自国の排他的経済水域(EEZ)内で実施しているケースと、国際漁場において関係漁業国が設置している地域漁業管理機関が実施しているケースがある。沿岸国EEZ内のTACは、科学的知見に基づいて政府により設定されるが、その過程においては関係漁業団体にも意見が求められる。日本では、サバ類、マイワシ、マアジ、サンマ、スケソウダラ、スルメイカ、ズワイガニがTAC対象魚種であり、各魚種の専門家と各関係漁業団体との意見交換が毎年行われている。また地域漁業管理機関では、機関内に設置された科学委員会の答申を受けて、加盟国が協議しTACが設定され、国別にTACが配分される。TACの決定には各国の利害関係が反映されることから、環境NGOがその監視役になっている。科学的知見とは、当該生物資源にかかわる研究のことであるが、もっとも求められる知見とは、当該資源の資源量の推定値である。資源量が安定しているのか、減っているのかなどが、TACを決めるときに必要になるからである。また、そのような資源の傾向と将来の資源水準の目標を踏まえて、生物学的な意味での許容される漁獲量が示されることがある。この数量は生物学的許容漁獲量(Allowable Biological Catch ; ABC)と呼ばれている。TACはABCを参考に決められることが多い。特に、近年ではTACをABCに純化する傾向にある。TACがABCを大きく上回る場合があり、TACが漁業者の意向により乱獲防止の役割を果たしていないという指摘が強まったからである。しかし、科学的知見とはいえ、資源量推定や予測値には信頼性の問題がつきまとう。実際、地域漁業管理機関においては、国が違えば科学者の見解が異なることすらある。TACを決めるガバナンスは、魚種ごとに異なるが、科学的知見との関係が今後も問われることになろう。