2013年4月10日に日本と台湾との間で締結した漁業の取り決めである。この取り決めによって、台湾が主張する漁業水域が明確になったが、日本の漁民にとっては一方的に漁場を奪われる格好となった。台湾当局はこの取り決め以前から尖閣諸島と先島諸島との間の海域を囲む暫定執法線を主張していたが、日本はそれを受け入れてこなかった。だが、日台漁業取り決めではそれが認められただけでなく、さらにその境界よりも沖縄側の2カ所の海域まで台湾漁船が操業できる水域となったのである。この背景には、尖閣諸島の国有化(12年9月11日)がある。日本は、1996年に国連海洋法条約を批准した後、境界線策定の必要性が生じて領土問題を抱える韓国、中国と漁業交渉を行ってきた。同時に、国交がない台湾当局とも沖縄周辺海域の漁業秩序のための協議を計16回行ってきた。だが2009年を最後に決裂していた。そのような足踏み状態が続く中、日本の尖閣諸島国有化により中国だけでなく台湾でも激しい抗議運動が起こった。それを受けて、12年10月5日に当時の玄葉光一郎外務大臣が台湾に融和を求めるメッセージを発し、その後官邸主導の下で決裂していた漁業協議を再開させた。そして、それまで進まなかった漁業協議がたった半年で締結に向かったのである。この漁業協議は、民間協議という名の下で行われたが事実上の政府間協議だったので、協議内容は漁民に全く知らされていなかった。締結後、沖縄を中心に漁業界が猛反発したが、13年5月10日、操業ルールが策定されないまま発効に至った。その後、沖縄漁民と台湾漁民との間で操業ルールを協議するための努力が続けられている。