2011年3月11日の東日本大震災発生後に生じた東京電力福島第一原子力発電所の事故により福島県沖の水域は深刻な海洋放射能汚染に見舞われた。その直後から福島県沖で操業する漁業は全面自粛に入り、今なおその状態が続いている。試験操業はこのような全面自粛の中、12年6月から安全性を慎重に確認しながら行われている。試験操業とは、海水、海底土そして魚介藻類のモニタリング検査を踏まえて、対象魚種や操業水域を限定して、さらには漁獲後もサンプルの放射能検査を行ってから流通させる取り組みである。放射性物質は汚染環境が継続しない限り魚体の体外に排出される。また海に放出された放射性物質は何かに吸着して海底にたまり、さらにそれらは海底で拡散するゆえに時間の経過とともに汚染環境は改善に向かうことが明らかになっている。他方で放射性物質が検出されやすい魚種も明らかになっている。そこで、魚種や海域を絞れば安全な魚介類が供給できるという判断に達して、12年6月福島県北部の相馬原釜地区で試験操業の開始に至った。対象魚種は当初3魚種であったが、14年1月時点で29魚種まで増えた。また漁業種は、当初は沖合底曳き網漁業のみであったが、タコかご漁業、船曳き網漁業と拡大した。取り組み地区も、県南のいわき市方面まで広がった。水域においては4回にわたって拡大された。ところが、13年7月に原発からの汚染水漏洩(えい)が発覚し、試験操業はいったん中断となった。その後モニタリング検査結果には汚染水の影響が出ていないことを確認してから再開に至ったが、汚染水漏洩事故が収束する気配がないことから、生産者の間では「風評」への不安がぬぐいきれないでいる。