国際捕鯨取締条約に基づいて1948年に設立されたIWC(国連捕鯨委員会)の目的は「鯨類の適当な保存を図って捕鯨産業の秩序ある発展を可能にする」である。しかしながら、そのような理念に反してIWCは86年から現在まで商業捕鯨を全面禁止にしている。商業捕鯨の全面禁止が採択された理由は、鯨類資源を管理するために用いる生物学的特性値が不十分で、管理措置には不確実性があるということであったが、国際関係から見ると単に反捕鯨国がIWC締約国の多数派を占めていることが強く影響している。捕鯨国である日本は、異議申し立てしたものの、87年には53年の歴史をもつ母船式捕鯨、88年には400年の伝統をもつ沿岸捕鯨(ツチクジラなどIWC対象種以外の沿岸捕鯨は細々と行われている)を停止し現在に至っている。国際捕鯨取締条約では、90年までに鯨類資源についての包括的な評価をして、その下で全面禁止を解除して捕獲頭数などを設定することが附表に記載されている。それゆえ、日本は科学の不確実性を解消するためにクロミンククジラなどを対象にして鯨類捕獲調査(いわゆる調査捕鯨)を87年から南極海で、94年から北西太平洋で実施してきた。しかし、商業捕鯨全面禁止の見直し作業は先送りされている。その背景には、日本の鯨類捕獲調査に対する不信感がある。商業捕鯨の隠れみのと見なされているのだ。近年では動物愛護思想をもつ反捕鯨団体(シーシェパードなど)による鯨類捕獲調査妨害活動がエスカレートしている。日本の鯨類捕獲調査は鯨類を解剖しなくてはならない純粋な科学調査である。だが、皮肉なことに国内でさえ、鯨類産業や捕鯨文化の保全のために行われていると勘違いされている。そのことも国際摩擦の一因となり商業捕鯨の再開を遅らせている。