木造文化財免震システムは、歴史的・文化的価値の高い木造建造物などを、外観や内装を損なわずに免震補強(免震レトロフィット)するための工法をいう。鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物における免震レトロフィットは、既存の建物の基礎または中間階に、柱ごとに免震装置(免震ゴム)を設置する工法で、阪神・淡路大震災を機に、大手建設会社を中心に開発が進められた。これに対して木造建造物の場合は、鉄筋コンクリート造や鉄骨造と比べて単位面積当たりの重量が極めて軽く、柱の数も多いため十分な効果が得られない。また、軽い構造物に効果のある小さくて軟らかい免震ゴムでは、大地震に対してゴムの変形限界の余裕が少ないなどの問題点がある。これらの問題点解消を目的として、免震ゴムの上にコンクリート製の人工地盤(床・梁)を設け、建物の各柱が支えている重量を梁を介して免震ゴムに伝える工法(木造文化財免震システム)が開発され、建物の隅角に必要最小限の免震ゴムを設置するだけで建物を支持することが可能となった。最近、木造建造物の効果的な免震工法として応用例が増えつつあり、兵庫県指定有形民俗文化財「沢の鶴 大石蔵」の復元工事や、祐天寺(東京)本堂・書院の耐震改修工事などにおいて採用されている。