マーケティングを実施する上で重視される志向の一つ。市場志向の研究で知られるワシントン大学教授のナーバー(J.C.Narver)とコロラド大学助教授のスレーター(S.F.Slater)は、1990年の『ジャーナル・オブ・マーケティング』誌で市場志向を(1)顧客志向、(2)競争志向、(3)職能横断的統合志向、という3つに分けて捉えている。(1)顧客志向とは、顧客に注意を注ぎ、顧客にとっての価値を高めていこうとする志向である。(2)競争志向とは、競争相手の行動に注意を払い、自社のマーケティング指針にしようとする志向である。特定企業の成長が他社の犠牲のもとで実現するような市場環境において、競争志向の重要性は高まっている。(3)職能横断的統合志向は、企業内の部門を超えたコミュニケーションや交流を重視し、組織の創造性を高めようとする志向である。市場志向に類似した概念に顧客主導がある。市場や顧客に目を向けるという点ではどちらも似ているが、顧客主導は目に映る現在の顧客を平面的に捉えるのに対して、市場志向では顧客をもっと立体的に捉えようとする。立体的というのは、目に映っている顧客だけではなく、時間的な広がりを持った顧客の捉え方である。したがって、顧客主導では顕在的な顧客から受動的に学び、彼らの満足を充足することに主眼を置くのに対して、市場志向では潜在的な顧客にも能動的に提案し、新たな価値を創造することに主眼を置いている。