国家およびその財産は、国際法上基本的に外国の裁判管轄権には服しないという制度。国家免除(state immunity)ともいう。19世紀以来、各国の国内裁判の判例の集積を通して形成されてきた。19世紀には、国家のすべての行為を裁判権の免除の対象とする「絶対免除主義」が広く採用されていた。しかし20世紀に入ると、対外的通商の増大化に伴い、通商活動などの一定の行為には免除を認めないとする「制限免除主義」へと移行した。2004年に国連総会で採択された国連国家免除条約(国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約)は、国家の商取引、雇用契約、不法行為、商業目的の政府船舶などにかかわる訴訟において、国家は免除を主張しえないとする制限免除主義を採用した。制限免除主義の下では、国家の権力的統治にかかわる「主権的行為」と、私人や私企業でもできる非権力的な「業務管理行為」とに分けられ、免除は前者に限定される。主権的行為と業務管理行為を区別する基準として、国家の行為の“目的”を重視する「行為目的基準説」と、その行為の客観的な“性質”を判断の尺度とする「行為性質基準説」がある。なお、国家が自発的に外国の裁判権に服した場合でも、強制執行の免除までも放棄したとはみなされず、強制執行のためには改めて当該国家の同意が必要であると考えられてきた。しかし21世紀に入った頃からは、商業活動などのための国の財産については、差し押さえや強制執行が容認されるとする見解が一般的となっている。ただしそのような場合でも、外国が主権的活動のために使用する財産に対して、強制執行を行うことは許されない。