18世紀末にドイツの哲学者カントは『永遠平和のために』において、国民が立法者となる共和制は武力行使を抑制し、法を尊重する体制であるから、共和制が広まることで永続的な平和に近づくと説いた。1980年代のアメリカでカントの議論が再発見され、自由民主主義国家同士の関係においては戦争の発生がほとんど見られないことを示した統計的データが蓄積・提示されはじめたことから、「民主主義国家同士は戦争しない」という命題を中核とする民主的平和論の研究が盛んとなった。同時にこの命題は、第一次世界大戦期のウィルソン大統領以来、民主主義の拡大を目指すアメリカ外交のイデオロギーとも親和性をもっており、クリントン政権の「関与と拡大」政策や、圧政を平和の脅威と見て民主化を安全保障と結びつけるブッシュ(息子)政権の中東民主化政策などの下敷きになっていたと見ることもできる。