ある国で大規模な人権侵害が存在するとき、それを解消するために内政不干渉の原則を侵して外部から行われる武力行動のこと。国際法上、介入(interference)と干渉(intervention)は区別され、外部からの強制を伴う関与は干渉と呼ばれるが、実際上両者の区別は困難な場合も多く、日本では人道的介入という表現がよく用いられる。主権国家が外部から干渉を受けないという内政不干渉は主権国家体制の基本原則だが、絶対的ではない。歴史的にも内政不干渉の原則には留保が付けられてきたし、主権の最終的根拠は被治者の同意にあるという近代政治の考え方からは、被治者に対して残虐行為を行うとか、被治者の保護機能を著しく欠く国家の主権は制約されうるという論理が成り立つ。しかし問題はその実際面にあり、介入の正当性についての中立的な判定者が存在しない以上、強国による介入の口実になりかねない危険がある。この点から、第二次世界大戦後には人権の国際的保障が重視されるようになったが、内政不干渉や国家による武力行使の原則的禁止が優先され、人道的介入は一般に否定されてきた。しかし冷戦終焉(しゅうえん)後、民族紛争や内戦で残虐行為が行われ、映像を通じて先進国に報道されると、人道的介入を支持する議論が高まった。湾岸戦争後に北部イラクのクルド人を保護するためにフランスが人道的介入を主張したのを皮切りに、ソマリア、コソボなどに人道を理由とした強制行動が行われた。その態様は国連の授権によるものや、地域的機構ないし単独で行われるものなど様々だが、介入の正当性や実効性についての疑問は残されたままで、論争が続いている。