もともと中国には環境悪化の基礎条件がある。(1)平坦な地形で、雨量と森林面積が少なく、自然浄化能力がきわめて低い、(2)産業構造上、製造業比率とりわけ重化学工業比率が高い、(3)エネルギー効率が極端に悪く、その上使用エネルギーに占める石炭比率が異常に高いなどである。急速な工業化、経済成長が進み、大気・水質・土壌汚染など生態系の破壊は悪化の一途をたどっている。例えば農村経済の発展に多大な貢献をした郷鎮企業は、大量汚水の排出、大気汚染の元凶となり、石炭依存から脱却できないエネルギー構造はCO2の排出による大気汚染を深刻化させている。環境問題で話題性が高いのは三峡ダム建設であった。移転人口111万人の大プロジェクトで生態系の破壊もかなり進んでいるといわれる。政府では計画、建設、稼働の各段階で環境保護システムを導入する三同時政策の実施、環境破壊の防止、「調和社会の実現」を掲げてきたが、言葉とは裏腹に事態は深刻である。特に2013年にはPM2.5に象徴される大気汚染は北京や上海の特大都市のみならず、地方大都市に広範囲に広がり、気管支炎の被害者が急増している。さらに朝鮮半島、九州などへの越境性も国際問題となっている。13年6月に国務院は大気汚染防止のための10項目方針をまとめたが、14年冬の汚染状況を見る限り事態が改善に向かっているとは言えない。13年の全国人民代表大会(全人代)の政府活動報告では、「今年度は小型石炭ボイラーを5万台、旧型車を600万台廃棄する」など、具体的な取り組み数値がはじめて示された。製油所、火力発電所など設備改造を伴う本格的な対策はこれからである。