中国浙江省温州市で高速鉄道列車「和諧号」が2011年7月23日夜、追突・脱線し、死者40人、多数の負傷者を出した事故。この事故は、(1)多数の死傷者を出したというだけでなく、(2)事故車両を早々に重機で破壊し土の中に埋めてしまう隠蔽工作を行ったこと、(3)事故の翌日に真相解明することなく最高幹部3人を解雇し彼らに責任のすべてを負わせたこと、(4)高速鉄道システムにおける基本的な安全思想の不徹底、(5)先進技術の「寄せ木細工」による安全技術の欠陥、(6)事故の規模からして死傷者の数があまりに少ないことなど、事故発生後も不可解なことが続発した。現地の記者や民間人が写真やビデオを撮り、そうした現場情報をブログやツイッターなどに流したため、この事故は社会的に大ニュースとなった。この高速鉄道は国家の威信をかけたプロジェクトであり、「誇るべき」技術の信頼が失墜し、政府は狼狽(ろうばい)した。その信頼失墜を防ごうともみ消しを図り、乗客の救援を後回しにし、「命の重さ」をないがしろにしたことが、遺族をはじめ市民の怒りを招いた。事故直後は「天災」によるものとの説明であったが、その後派遣された事故調査チームの報告書では、「信号機の重大な欠陥」によるものとして「人災」であることが明らかにされた。温家宝首相をはじめ中央指導者も現地視察し、「高速度優先」で「安全・人命軽視」を進めた鉄道省の体質が批判されるようになった。鉄道敷設・関連企業群による運輸市場の独占を誇り、「腐敗の温床」ともいわれた鉄道省に対して、ネット上で真相究明と幹部の責任追及の呼びかけがなされ、劉志軍鉄道相はじめ何人かの関連幹部の更迭を余儀なくされた。こうした事件の事実と遺族や市民の怒りを明らかにしたのはインターネットをはじめとする非公式メディアであった。インターネットを利用した市民の声が権力の不正やもみ消しを防ぐのに重要な効果があったことを示す貴重な事例となり、国際社会も一連の動向に極めて高い関心を持った。