2016年1月16日の台湾総統選挙で民主進歩党(民進党)の蔡英文党首が当選し、同年5月20日に正式に就任し、台湾初の女性総統となった。スタート時点の人気は高かった。5月20日の就任演説では、若者の雇用の重視、経済構造の転換、年金制度改革など政府の取り組むべき課題を表明し、民衆から好感を持たれた。就任1カ月後の政権への満足度は47%、不満度18%、意見なし35%であった。しかしその後下落の一途で就任半年後の満足度は26%に下降、不満度は46%と大幅増になった。不満増大の要因として、中台問題への対応を指摘することは的外れだろう。彼女は就任演説で「1992年に若干の共同認識と了解が達成されたという歴史的事実は尊重する」と表明した。しかし中国当局は蔡政権が「92年コンセンサス」を認めないとして6月に中台間の対話の停止を一方的に発表。経済関係も停滞し、中台関係は緊張状態にある。2017年1月に、アメリカでトランプ政権が誕生したが、蔡総統は祝賀の電話メッセージを送り、トランプ大統領はこれに対応したことを公にした。中国当局は通例を破ったトランプ大統領を批判するよりも蔡総統への批判を強めた。中台問題で蔡総統を批判する声は台湾内にあるが、現時点では主に国民党支持者からの批判であり、中台関係が蔡政権の基盤を揺るがすという状況ではない。問題は内政である。まず(1)政権作りに関して安定を優先し国民党色彩の強い人事を行い、曖昧な指導体制になったこと、(2)政府財政をひっ迫させている年金・退職制度改革の壁にぶつかったこと、(3)東京電力福島第一原子力発電所事故後に実施された日本の関連5県の食品輸入禁止を、福島以外緩和しようとしたことに対する激しい抗議行動が起こったことなどである。内政問題をいかに挽回するか、17年は蔡英文政権にとって早くも大きなヤマ場を迎えることになった。