リー・シェンロンは、シンガポールの「建国の父」とされる初代首相リー・クアンユーの長男で、2004年8月、52歳の若さで第3代首相に就任し、親子2代の首相が誕生した。早くから父の後継者と目される秀才で、イギリス・ケンブリッジ大学を最優等で卒業後、アメリカ・ハーバード大学院で学ぶエリートコースを歩んできた。1984年に国軍を准将で退役、国会議員に当選し政界入り。90年に副首相に昇進し首相就任は既定路線とみられていた。政権担当後初の2006年5月の総選挙は好調な経済を背景に予定を前倒しして行われたもので、与党人民行動党(PAP)の圧勝で国民の信任を得たとして首相に再任された。長期政権をめざすリーの背後にはリー・クアンユーが顧問相、ゴー・チョクトン前首相が上級相として閣内に「お目付け役」として控えているため、当面は大きな政策転換は期待できそうにない。政府は同年9月、民主化を求める民主党のチー書記長の活動を紹介した香港の英語誌「ファーイースタン・エコノミック・レビュー」を国内販売禁止にしたのに続き、11月には当局の許可を受けずに街頭演説したとして、同書記長を投獄した。また同9月にシンガポールで開かれた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)と世界銀行・国際通貨基金(IMF)の年次総会などの国際会議で、政府は海外市民団体代表らの入国を混乱防止を理由に拒否し、世銀などと対立した。独立後世代の新しい指導者として若い世代の支持を得るには、前2代の首相が続けてきた言論や政治の自由に対する制限政策を緩和することが不可欠とされている。