世界最多のイスラム人口を擁するインドネシアには数多くのイスラム系政党がある。主要なものはインドネシア最大のイスラム組織ナフダトール・ウラマ(NU)を基盤とする民族覚醒党、開発統一党、福祉正義党、第2のイスラム組織ムハマディアを基盤とする国民信託党など。政党指導者の多くは世俗民主主義の中でのイスラムの発展を志向する穏健派で、イスラム国家樹立をめざす原理主義運動とは一線を画している。しかし、アジア通貨危機によって打撃を受けた貧しい国民の間で、イラク戦争による反米感情の高揚とともにイスラム回帰の傾向が生じ、2006年2月以降、インドネシア版プレイボーイ誌発刊問題を契機に、議会内外で反イスラム的習俗に対する規制を求める議論が高まるなど、原理主義的傾向が強まっている。観光客ら200人以上の犠牲者を出した02年10月のバリ島爆弾テロと、03年8月にジャカルタのアメリカ系高級ホテルで起きた爆弾テロを、アメリカ・オーストラリア政府はイスラム原理主義の地下組織ジェマー・イスラミア(JI)の犯行と断定、インドネシア政府にJIを摘発するよう圧力をかけた。JIの精神的指導者とされるアブ・バカル・バシル師らが逮捕され、バリ島事件に関与したとして反テロ法違反で服役したが、06年6月に刑期を終えて出所した。04年9月のジャカルタの爆弾テロ、05年10月のバリ島の連続爆弾テロについてもJIの関与が疑われている。JIはインドネシアだけでなくマレーシア、フィリピン南部にまたがるイスラム国家の樹立をめざし、国際テロ組織アルカイダと提携しているとされるが、実態は不明。インドネシアでは現在なおイスラム過激派の小グループによるテロが頻発し、その対象が外国人が宿泊するホテルや教会から、イスラム穏健派やモスクにまで広がりつつある。