2011年7月に始まりタイ国内だけでなく、日本、さらには世界全体の経済に大きな打撃を与えた大洪水。水が引き始めた11月末までの死者は600人近くに達し、被災からの復興が8月に発足したばかりのインラック新政権の緊急課題となっている。直接の原因は、過去50年で最多の降雨量。5~10月の雨期に、南北を貫くチャオプラヤ川が増水し、雨期の終わりごろに海面との高低差がほとんどないバンコクに下ってきた水が、満潮と重なって市内にあふれ出ることは珍しくない。ただ11年は、7~9月に平年を30%上回る降雨量に見舞われたために、流域の北部、中部、南部で次つぎに洪水が広がり、27県の約300万人が被災するに至った。10月にはバンコク北部のアユタヤ県の工業団地が浸水、約180社の日系企業が操業停止に追い込まれた。タイへの直接投資総額の約4割を日本企業が占め、製造業従業員550万人のうち2割が日系企業といわれる。タイは東南アジア最大の自動車や部品の生産拠点で、製品はアジアや中東、ヨーロッパに輸出される。洪水の長期化によって各社の業績が悪化しただけでなく、世界全体への製品供給が停滞する事態となった。インラック政権の対応が後手にまわったことも被害拡大につながったと指摘されている。