2012年12月16日に、首都デリーで発生した23歳の女子医学生を被害者とする集団暴行・殺害事件が、性犯罪に対する全国的な憤激を呼びおこした。事件後、加害犯6人(うち1人は17歳の未成年、1人は勾留中に不審死)に死刑を要求するデモが、連日のようにデリーをはじめ全国で繰り広げられた。刑事特別法廷は同年9月13日に被告4人全員に死刑判決を下した(デリー高等裁判所に控訴中)。性犯罪が後を絶たない背景のひとつには、警察の非協力、裁判の遅延、有罪率の低さなどの刑事・司法制度上の問題がある。12年現在、女性への暴行をめぐる10万件の訴訟が審理中であったが、同年中に処理された1万4700件のうち、有罪判決は3563件にすぎなかった(有罪率24.2%)。デリーでの事件後、ヴァルマ元最高裁判所長官を長とする委員会が設置され、刑事法改正を含む性犯罪防止策が検討され、死刑を含む刑罰の強化、訴訟手続きの迅速化などの措置がとられた。しかし、より根本的な原因は、社会の中で女性がおかれている不利な立場にある。デリーの暴行事件では都市の若い女性への性暴力がクローズアップされたが、妊娠時の性別診断による女子胎児の堕胎に始まり、持参金絡みの「花嫁殺人」、家庭内暴力や寡婦の遺棄に至るまで、年齢、都市・農村を問わず、女性の虐待や殺害に従来から有効な防止策がとられず、厳重な処罰もほとんど行われてこなかった現実がある。