インドのデリー首都圏の大気汚染。年を追うごとに悪化が進み、2016年11月には連邦政府が「非常事態」を宣告するほど深刻な事態に立ち至っている。内陸部にあるデリーでは、11月から2月にかけての乾期(冬季)に大気の循環が衰え、自動車の排気ガスや工場、石炭火力発電所の排煙、道路や畑の砂塵、工事現場の粉塵、さらには一般家庭の生活排煙が滞留する。これに近隣州農村が行う冬季特有の野焼きの煙が加わることで、大気の汚染は大規模な健康被害を引き起こすほど危険な状態に達している。体内に吸収される有害微小粒子状物質PM2.5の値でいえば、デリーでのPM2.5安全基準値は24時間平均で1立方メートル当たり60マイクログラム。200マイクログラムが警戒水準とされているが、11月から1月にかけてはほぼ全日、汚染はこの水準を上回る。25マイクログラムという世界保健機関(WHO)の安全基準値を採れば、その40倍に当たる1000マイクログラムに達する日も少なくない。デリー政府や連邦政府は、2000年ころから工場移転、再配置、タクシー燃料のCNG(圧縮天然ガス)化、自家用車利用規制などを進めてきたが、16年11月には域内にある全ての学校で3日間の学級閉鎖を行うなど、日常生活に大きな支障が生まれるほど汚染は進みつつある。大気汚染による喘息など呼吸器障害が幼児、学童の健康を損ない、死因としても無視できない要因となっている。WHOによるデータ(2015年)では、世界の都市の大気汚染(PM2.5)上位10位までにインドの4都市(2位グワーリヤル、3位イラーハーバード、6位パトナ、7位ラーイプル、デリーは11位。いずれも同じような北部の内陸都市)、50位までに22都市が数えられる(インドの数値は一部を除き12年)。中国はそれぞれ2都市、8都市にとどまっており、インドの大気汚染の深刻度は、すでに中国をも上回っている。