カナダにとって北極圏を含む北方地域は「北の国」としての独自なアイデンティティを形成する上で重要な意味を持つ。また、原油や天然ガスなど世界の未開発の資源エネルギーの約4分の1は北極圏に位置しているともいわれるが、資源の開発や輸送には莫大なコストがかかるため、開発はこれまで事実上、手付かずのままであり、国境線についても不確定のままであった。ところが、最近では地球温暖化のため、北極圏の氷が次第に解ける現象が目立ち、平和な未開拓の地域ではなくなりつつある。2008年8月にはロシアの潜水艇が北極点の海底に国旗を立て、ロシアの領有を主張するような行動に出た。また09年夏にはドイツの貨物船が韓国の港からベーリング海峡や北極海を経て、ロシアの港に到着した。この北極圏を経由するルートであれば、スエズ運河経由より輸送距離は3分の2にまで短縮されると言う。これはアジアとヨーロッパを結ぶ新しい航路の誕生を意味する。しかし環境破壊なども予想されるので、こうした新しい航路をカナダとしては無条件に認めることはできない。北極圏にはカナダ以外に関係する国家に加え北大西洋条約機構(NATO)や北極評議会などの国際機構もかかわっている。また先住民のイヌイット15万人がこの地域に国境をまたがって住んでおり、資源開発や地球温暖化が彼らにダメージを与えることも予想されている。