カナダが国家元首として戴くイギリス君主の代理人として、「総督」を置く制度。イギリスの植民地であったカナダが、イギリス式の立憲君主制を採用したことを象徴する存在であり、国家元首としての役割を果たしている。現在でもカナダ議会が可決した法案は、総督が署名することで正式に成立する。1867年にカナダ連邦が成立した後も、1952年まではイギリス人が総督に任命されていた。それ以降はカナダ人が任命され、総督のカナダ化が定着してきた。最近では中国系の女性やハイチ系の黒人女性など、多文化・多民族国家であるカナダらしい総督が任命されてきた。しかし2010年10月には白人の中年男性である、学者のD.ジョンストンが第28代の総督に任命され、少し軌道修正が行われたようでもある。総督の任期は5年で、連邦首相が選任して任命する。州レベルでも、連邦レベルと同じように州(あるいは副)総督が置かれ、州法もそれぞれの州総督が署名することで正式に成立する。州総督は形式上、イギリス国王の代理人であるが、同時に連邦政府の代理人という側面も持つ。このため州議会が可決した法案について、もし連邦政府が好ましくないと判断すれば、法案に署名しないことでコントロールすることが可能となるが、そうしたケースは現在ではほとんどない。しかし、総督が単なるシンボルであるかといえば、そうではない。選挙の後に、政党の獲得議席を踏まえて首相を任命するのは総督であり、その政治的役割は大きい。また特定の政党が過半数の議席を占めていない場合には、誰を首相に任命すべきか、総督は難しい政治的判断を迫られることになる。加えて議会の開会をつかさどるのも総督である。立憲君主制のもとでの元首の役割を果たす総督に対して、連邦首相は政府の最高責任者としての責任と権限を有し、政治のリーダーシップを発揮している。