中東・北アフリカの民主化運動「アラブの春」を受け、オバマ大統領は2011年5月19日、ワシントンの国務省で中東政策に関する包括的な演説を行い、新中東戦略を示した。オバマ大統領は、中東諸国の民主化移行への成否は、経済成長と繁栄にかかっていると主張し、地域の安定に向け経済援助を通じて支援していく姿勢を打ち出す一方、シリアなど独裁政権を厳しく非難した。パレスチナ和平問題をめぐっては、イスラエルによるパレスチナ占領が始まった1967年の第3次中東戦争までの境界線に基づき双方の境界を定めるべきだと提案し、占領地で入植活動を続けるイスラエルに譲歩を求めた。一方、パレスチナに対しても「パレスチナ国家」の国連加盟をめざす自治政府のアッバス議長の動きを批判、自治政府主流派のファタハとの暫定統一政府の発足などを盛り込んだ和解案に最終合意したばかりのイスラム原理主義組織ハマスに対し、テロ活動の停止とイスラエル承認を求めた。オバマ大統領がこのタイミングで、パレスチナ側の主張を取り込んだ新提案を行った背景には、和平交渉の仲介役だったエジプトのムバラク大統領が「アラブの春」で退陣するなど、中東情勢が激変する中で、同盟関係にあるイスラエルを気遣って和平問題を放置すればアラブ民衆の反米感情を悪化させかねないとの判断があったようだ。これに対し、演説の翌20日にホワイトハウスでオバマ大統領と会談したイスラエルのネタニヤフ首相は「67年の境界線に戻ることはできない」と述べ、大統領提案を拒否した。