カナダには、「英領北アメリカ法」(BNA法)と「1982年憲法」という二つの成文憲法がある。連邦制度の枠組みはBNA法が規定し、憲法改正ルールや国民の権利規定などは1982年憲法において定められている。二つの成文憲法はその意味で相互に補完しあう関係にある。BNA法は、イギリス領植民地からの要望を受けて、1867年にイギリス議会がカナダのために制定した。連邦制度としては、議会の権限を規定した第91条(連邦議会)と第92条(州議会)が重要である。さらに例外的な事柄として、特定の権限については連邦議会と州議会がともに管轄する(第95条、農業と移民)というユニークなものもある。加えて学校教育制度の運営にあたり、プロテスタント系教会とカトリック系教会の権限をオンタリオとケベックで認めた第93条も重要な共存の仕組みとして組み込まれてきた。全体では147の条文に加え、オンタリオとケベックの選挙区などを規定したテクニカルな内容を別表(付録)として組み合わせたものとなっている。1982年憲法では、人権規約が明文化され、国民の権利が規定されている。また英語とフランス語を公用語として認めることや先住民の独自な権利承認というユニークな内容も盛り込まれている。ただし、1982年憲法制定のプロセスにおいて、ケベック州政府の合意なしで成立させたことにより、カナダの連邦・憲法体制への信頼が揺らぐという課題が残った。