現ロシアが直面している最も頭の痛い国内問題。プーチン大統領(当時)自身、2000年の就任以来毎年のように教書演説中で、この問題に触れた。ロシアの人口は09年現在、1億4190万人で世界第7位。だが、年間平均して80万人もの割合で減少を続けている。このペースで推移すると、ロシアの人口は、50年に1億780万人となる。日本の予測人口(1億2740万人)よりも人口が少ない国となる可能性がある。ロシア人口の急減傾向に歯止めをかけようとしてプーチン大統領が06年5月の教書演説で具体的に提案したのは、次の三つ。(1)出生率を向上させる、(2)死亡率を低下させる、(3)効果的な移民政策を推進する。なかでも注目されたのは、母親となる女性に対する経済的な支援策。第1子を産んだ女性には毎月5000ルーブル、第2子には同じく3000ルーブルを現金で支給する。この政策が功を奏したのか、06~09年に出生率が若干上向いたことは確かであるが、それは1980年代のベビーブームに起因する一時的な現象とみる見方もある。メドべージェフ大統領は、2010年の年次教書演説で、第3子を産んだ家庭には土地を無償で提供することすら、提案した。出生率低下以上に注目すべきことは、ロシア系の人口が減少する一方、チェチェン人、イングーシ人など、スラブ系民族に比べ多産系である南部イスラム系民族が急増していること。このような民族比率の変化は、ロシアの政治、安保、経済に多大な影響を及ぼすことになろう。