とくに内政問題ではリベラルとみられていたメドベージェフ大統領が外交・安保分野で打ち出している強硬姿勢を正当化する理論。大統領就任後3カ月もたたない2008年8月、メドベージェフはグルジア(現・ジョージア)の南オセチアへの軍事攻勢に直面し、ロシア軍を同地域のみならず、グルジア領内奥深く侵攻させた。このとき同大統領は、二つの大義名分に訴えた。(1)は、ロシア系住民保護。同大統領は述べた。「ロシア政府は、彼らがたとえどこに住んでいようとも、ロシア系住民の生命と尊厳を守る」(08年8月8日)。(2)は、特殊権益地域論。同大統領は述べた。「ロシアには特権的な利害を有する諸地域があり、そのような地域を守るためにロシア政府はあらゆる措置を講じる」(同月31日)。同大統領は09年11月、国防法を改正し、ロシア連邦軍の国外派兵の要件として、「ロシア系住民の保護」「外国の要請」などを追加した。同大統領はさらに12月、ロシア軍の国外派兵を今後大統領の決定だけで可能とするよう、上院(連邦院)に申し入れ、承認を得た。現行ロシア憲法102条は、同決定は上院の権限に属すると規定していたからだった。