プーチンが大統領に当選した直後の2000年4月に採択された「(ロシア連邦)軍事ドクトリン」が、その後のロシアを取り巻く内外安保情勢の変化に従って改訂されたドクトリン。改訂版執筆に大きな役割を果たしたとみられるのは、ニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記(前連邦保安庁長官)。彼が「イズベスチヤ」紙とのインタビューのなかで事前に洩らしたところによれば、新しいドクトリンの最大の特徴は、ロシアの核兵器の先行使用(first use)の条件をゆるめ、大規模紛争のみならず地域紛争にも適用されるとしたことだった。このことからもわかるように、新ドクトリンは、(1)冷戦時代から存在するロシアとアメリカ、北大西洋条約機構(NATO)との軍事対立を念頭に置く伝統的な安全保障と、(2)とくにソ連邦解体後に顕著となってきたチェチェン共和国など北コーカサス地域におけるイスラム過激勢力によるテロリズムに対抗するための非伝統的な安全保障との二つの脅威に対処しようとして形成されている。08年夏のグルジア(現・ジョージア)との軍事衝突、そして米ロ核軍縮交渉の進展で通常兵器の技術革新の遅れが顕著となったロシアは、それを埋め合わせるためにも核の保有および使用の可能性を周辺諸国に誇示する必要に迫られている。