2010年9月28日にメドべージェフ大統領がモスクワ市長のルシコフを解任した事件。首都モスクワの市長ポストは、2004年より市民による直接選挙制から大統領による事実上の指名制に変わったが、ユーリー・ルシコフ(1936年生まれ)が、92年以来18年間の長きにわたってそのポストを独占していた。ルシコフはモスクワを近代的な大都市へ変容させた点で功績が大きかった一方で、同市を彼の個人的な独裁下に置いた。彼の2度目の夫人、エレーナ・バトゥリナは、建設・不動産会社を経営し、モスクワ市から特別の便宜供与を受けているとのうわさが絶えなかった。彼女は、アメリカの財界誌「フォーブス」の2010年の世界億万長者番付表で世界第3位、ロシア第1位の女性富豪の地位を占める。大統領がモスクワ近郊の「ヒムキの森」を通る高速道路建設に待ったをかけたことを批判する文章をルシコフ市長が公表したことを契機として、両者間の確執が深まった。後任市長に指名されたのは、セルゲイ・ソビャーニン(1958年生まれ)。2005年にプーチン大統領(当時)によって、チュメニ州知事から大統領府長官に大抜擢(ばってき)された人物で、それまでプーチン首相下で副首相と内閣官房長官を務め、プーチン側近の1人とみなされている。