メドベージェフ大統領が2010年11月1日、北方領土の一つ、国後(くなしり)島を電撃的に訪問した事件。北方領土は、日本とロシアとの間で主権帰属先が争われているデリケートな地域である。そのために、ビザなし交流が行われる一方、ソ連、ロシア期を問わず、これまでロシアの最高責任者のだれ一人として訪問を敢行しない土地だった。メドベージェフ大統領は、ベトナムで開催のASEAN首脳会議後、サハリンで便を変え、国後島を訪問し、約3時間半にわたって同島の発電所、幼稚園などの諸施設の視察を精力的に行った。日本側による前もっての訪問取りやめの要請を無視するかたちでなされ、日ロ関係改善に水を差す行為となった。訪問の動機としては、大別して次の三つが考えられる。(1)12年の大統領選挙を控えてのメドベージェフ大統領の指導力誇示、(2)尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件などで、日本の菅直人政権が露呈した「弱腰外交」のすきを突いたもの、(3)択捉(えとろふ)島での軍事演習、「第二次世界大戦終了の日」の制定など、最近のタンデム(双頭)政権による対日攻勢の一環。