ここでは数あるシリア和平交渉プロセスの中で、国連主導およびロシア主導のものについて概説する。シリア紛争に関する和平交渉におけるロシアの立場は、2012年6月、国連主導により進められたシリア和平交渉とその成果である「ジュネーブ・コミュニケ」の採択以来、表向き、アサド大統領の辞任を前提としない「暫定政権」樹立による和平の追求という姿勢で一貫している。しかし実質的には、シリアを含めた中東におけるイスラム過激主義の伸長は、ロシア国内の同種の勢力拡大につながるとして、アサド政権を中心とするシリアの安定化を支持してきた。この姿勢は、その後に続く国連主導の和平会議「ジュネーブ2」(14年)および「ジュネーブ3」(16年。ただし即座に中断)でも維持された。ロシアは、以上の国連主導の和平プロセスに関与するほか、同じくアサド政権を支持するトルコやイランと連携して独自に和平交渉を進めている。16年12月のアレッポ制圧を踏まえ、ロシアとトルコは停戦協議を主導し、さらにイランを加えた形で17年1月23~24日、カザフスタンの首都アスタナで和平会議を共催した。アサド政権や「自由シリア軍」など15の反政府勢力の参加を得て開催されたこの会議では、ロシアが提案した新シリア憲法案が棄却されるなど、目立った成果は表れなかった。しかし、17年にアメリカで発足したトランプ政権とのシリア問題を含めた国際政治での協調を図るための地ならしとして、一定の意味を持つ会議となった。