「西バルカン」とは、スロベニアを除いた旧ユーゴスラビア地域、バルカン地域を指す、EU(欧州連合)による呼称である。2003年6月のテッサロニキ欧州理事会では、この地を2013~15年にEUに加盟させることが決定された。プロディ欧州委員会委員長(当時)も「西バルカンの安定なしにヨーロッパの安定はない」として拡大に積極的となった。
最先端を走っていたクロアチアは、旧ユーゴ国際戦犯法廷に協力的でないとして、04年3月からの加盟交渉開始を延期されたが、05年10月、交渉を開始し、マケドニアも12月にはこれに続き交渉を開始した。08年末の段階では、マケドニアは、ギリシャからの国名変更要求の結果、NATO(北大西洋条約機構)、EUともに加盟候補国への指名は先送りとなった。また、EUやアメリカなど主要大国がギリシャを支持し、マケドニアに加盟のための譲歩と、国名変更(北マケドニア)を迫ったことから、マケドニアは強く反発することとなる。
他方、セルビア・モンテネグロは、モンテネグロの独立の国民投票の結果、06年5月には、モンテネグロが分離・独立を達成した。これは国連暫定統治下のコソボ自治州にも影響を与え、07年11月の総選挙でコソボ民主党が第1党となり、急進派のサチ(元コソボ解放軍〔KLA〕指導者)が首相となり、08年2月にはアメリカとEUの後ろ盾の下、独立が宣言された。しかしEU内でも、スペイン、ルーマニア、スロバキアなど、いくつかの国が不支持を継続している。
EUは、欧州憲法条約および改革条約が、フランス、オランダ、さらにアイルランドで拒否された経緯があり、また、EU内各地でナショナリズムが高揚していることもあり、さらなる拡大は慎重を余儀なくされている。それでもクロアチアは09年には交渉終了、10~12年には加盟を目指しており、セルビア、モンテネグロ、コソボなど旧ユーゴ諸国は、20年前後の加盟を目標としている。