EU(欧州連合)の拡大と南東欧の安定化に伴い、地域と境界線の認識が変化の兆しを見せている。その一つが、「コンタクト・ゾーン」認識である。冷戦の終焉(しゅうえん)後、バルカンの民族紛争の泥沼化の中で、民族国境線は、ハンチントンの「文明の衝突」に見られるように、フォルトライン(断層線)、紛争地域と見なす考え方が主流であった。しかし「国境なきヨーロッパ」理念の浸透と、バルカンへのEU拡大の可能性の中で、多民族の共存への期待が、コンタクト・ゾーン(出会いの場)としての境界認識へと変容しつつある。2004年の国際マイノリティーの会合では、文化人類学的な観点から、とりわけ異人種間結婚において宗教や生活習慣などの共存が古くから行われていたことが明らかにされた。EUの拡大とバルカン紛争の沈静化の中、民族共存・融和の日常史に光が当てられ始めている。