EU(欧州連合)拡大により、その新たな境界線は、中・東欧の東に移行し、ロシアやベラルーシと長い国境をもつに至った。この事実にかんがみ、EUは2003年、近隣諸国とのワイダー・ヨーロッパ構想を発表した。これは、東はロシア、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバの4カ国、中央アジア・コーカサスの3カ国(グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン)とのパートナーシップ協力協定(経済・政治的協力関係)、南はバルセロナ・プロセスを結んだ北アフリカ、中東、地中海諸国10カ国、計17カ国との協力関係(援助・人権・友好・発展)であり、「近隣諸国政策」とも呼ばれる。前者とEUは主に経済協力、後者とは援助、人権、友好、経済発展の協力関係をめざしている。とりわけEUは、ロシアとは石油、天然ガスの共同開発と供給を中心とし、地域紛争による不安定でリスクの大きい中東の石油の代替として、大きな意義をもつ。中・東欧のほとんどの国がEU、NATO(北大西洋条約機構)に加盟した現在、ロシアの直接の脅威は格段に薄れた。
しかし中・東欧諸国のロシアに対する警戒心はいまだ強い。01年にはカリーニングラードの核配備疑惑、逆に04年のバルト諸国のNATO加盟に際しては、ロシアがバルト諸国に核兵器を配備しないことを強く要求するなど、軍事的緊張関係は払拭(ふっしょく)されていない。さらに07年には、アメリカがテロ対策としてポーランドにミサイル、チェコにレーダー配備を決定し、プーチンのロシアは、それが実行されるならば対抗措置としてカリーニングラードへの核配備も検討すると表明するなど、ロシアとの東の境界線はいまだ問題をはらむ。ベラルーシがいまだ権威主義体制を払拭していないことも大きな懸念材料である。マフィアの流入と移民問題もある。中・東欧諸国はロシアやウクライナからのマフィアの流入が、治安を悪化させ、麻薬や武器・弾薬、ときには核弾頭をも持ち込むことには神経をとがらせている。ただしこれらに対しても、司法内務協力や、ユーロポル(欧州警察)の活動、治安とテロ対策など、欧州レベルの機構整備で歯止めがかけられつつある。