2007年12月末より、シェンゲン協定の枠組みが、15カ国から一挙に24カ国に拡大した。これは、04年にEU(欧州連合)に加盟した10カ国のうちキプロスを除く9カ国が、シェンゲン協定にいっせいに組み込まれたことによる。その結果、これまでドイツ、オーストリア、イタリアの東の国境線に引かれていた人・もの・金・サービスの「自由移動」のラインが、バルト3国、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニアの東の国境線、およびマルタへと拡大することとなった。しかしこのことで逆に、ロシアのEU内の包領地カリーニングラード、およびベラルーシ、ウクライナ、さらに旧ユーゴスラビアなど、「新たな境界線」の「外」に住む人々は、新しくシェンゲン協定に基づくビザが要求されるようになった。境界線周辺に住み、境界線を行き来して生活・労働を営む人々に、新たな分断の問題を生むこととなった。現在のところ、周辺地域に住む人々へのトランジットビザの導入や、ルーマニア、ブルガリアなど、既EU加盟国への移動に対しては、身分証明書の提示などの施策が講じられているが、カリーニングラードやウクライナなどとの間では、新たにシェンゲン領域に入るには厳しいチェックが要求され、「EUの東・南の境界線」の問題を生み出している。