拡大ヨーロッパが発足して以降の拡大論議の焦点は、トルコの加盟問題に移った。トルコは1987年に加盟申請し、欧州連合(EU)は99年にトルコを加盟候補国に指定したが、民主化や人権問題などを理由に加盟交渉を先送りした。クルド人に対する弾圧政策や死刑制度などの人権・民主化政策の遅れなどが、加盟交渉の開始を遅らせる要因となってきたが、その後のトルコ政府による人権・民主化政策の進展を受けてEU委員会はトルコとの加盟交渉入りを勧告、2004年12月のEU首脳会議で05年10月からトルコとの加盟交渉に入ることが決定された。しかし、首脳会議でキプロスとの領土紛争の解決や、不法移民のEU域内への流入を阻止するための労働者の移動規制などの厳しい条件を課すことが決定されたことは、トルコにとって高いハードルが設定されたことを意味する。トルコは04年5月に先行加盟を果たしたギリシャ系のキプロス共和国を承認していない。トルコが加盟するには、キプロス共和国の国家承認が欠かせない。それ以上にトルコにとっての難題は、トルコ国民の99%がイスラム教徒という点である。05年10月3日から加盟交渉が開始され、11月に欧州委員会はトルコを市場経済国に認定し加盟へのハードルを一段下げたが、現加盟国には、トルコのEU加盟を異教徒の侵入と受け止める感情が少なくない。1990年代以降EU諸国でトルコ系移民に対する嫌悪感が広がり、反イスラム感情と絡んでトルコの加盟に拒否反応が広がってきた。これに対してトルコのエルドアン首相は23年までに加盟が実現しなければ、加盟交渉は失敗に帰すると語り、交渉が進まないことにいら立ちを隠そうとしない。トルコが地理的にヨーロッパなのか、という本質的な問いかけとあわせ、加盟交渉の行方は不透明さを増している。