欧州連合(EU)の分野別歳出割り当ては農業分野と構造政策への配分が最も多く、特に農業分野への割り当ては2005年度予算で42.6%と突出している。共通農業政策(CAP)がヨーロッパ統合過程で最も重視されてきたことを物語っている。フランスのような農業国に有利な歳出構造に異を唱えたのはサッチャー時代のイギリスであり、補助金の分野別配分の公平を強硬に主張した結果、導入されたのが予算払戻金(リベート)制度である。CAPを統合のシンボルと見るドイツとフランスは、主要拠出国であるイギリスだけがリベートを受け取る現行制度の下で、EUの財政改革を目的にリベートを抑制する必要性を再三主張してきた。05年6月17日に開催されたEU首脳会議で、議長国のルクセンブルクとドイツ・フランスはリベート額を削減する提案を行ったが、イギリスがこれを拒否したため、財政計画は合意を得ないまま決裂した。この問題の背景には、ヨーロッパ統合を連邦主義的に推進しようとしてきたドイツ・フランスと、加盟国の主権の尊重を前提とする緩やかな国家連合主義を追求するイギリスとの、統合をめぐる主導権争いがひそむ。首脳会議の決裂は、EU憲法条約の批准に失敗したフランスの統合加速戦略とイギリスの慎重な戦略との間の距離が、いかに広いかを示している。結局、05年12月5日に議長国のイギリスが07~13年の中期財政計画の予算案を発表し、リベートについては7年間で約80億ユーロの削減に応じる姿勢を示した。イギリスが放出するリベートは中・東欧などの新規加盟国への補助金に回される。