政教分離の原則に従い、公立学校の校内や公式行事で宗教上の帰属を明示的に示す標章や服装を禁じるフランスの法律で、シラク大統領(当時)が音頭をとって同法の制定を推進、2004年3月に上院で可決・成立し、9月から施行された。女性イスラム教徒のスカーフの着用も禁止対象となることから、宗教スカーフ禁止法とも呼ばれる。この法律をめぐってラファラン首相(当時)は公教育の場での非宗教原則を強調し、宗教差別を目的としたものではないと言明したが、イスラム教徒の女子生徒によるスカーフ着用をめぐって学校と生徒との10年越しの対立が再燃、国内のイスラム教徒から「イスラム教徒の生徒をねらい撃ちにするもの」として猛烈な反発が起こった。同法の制定は海外にも波紋を広げ、エジプト、レバノン、モロッコなどフランスに移住したイスラム教徒の出身国をはじめ、インドネシアなど多くのイスラム諸国から反発を招いた。また、国際テロ組織アルカイダの指導者の一人と目されるアイマン・ザワヒリが同法の制定を「イスラム世界を攻撃する十字軍の行動」と非難したり、イラクで2人のフランス人記者が04年8月28日に武装集団に拉致され、同法を48時間以内に撤廃するよう要求されるなど、イラク戦争の開戦に反対したにもかかわらず、中東のイスラム世界から敵視されるという皮肉な結果を招いた。10月にはフランス東部のミュールーズの公立中学校で、スカーフを着用し続けた2人の女子生徒が退学処分を受けたのを皮切りに、各地で40人を超える退学者が出るなど、フランス社会に亀裂を走らせる事態が続いた。