北大西洋条約機構(NATO)の核戦力、すなわちNATOのヨーロッパ加盟国に配備されているアメリカの戦術核兵器は、冷戦期に比べ大幅に縮小され、現在、B61重力爆弾200個が残されるのみとなっている。その運搬手段(米欧の戦闘機)の数も削減されている。しかも老朽化しており、早晩、更新が必要になっている。オバマ大統領の2009年4月のプラハ演説はNATOの核政策にも影響を与え、こうした残存戦術核をめぐって議論が起こっている。核が配備されている諸国、特にドイツ、ベルギー、オランダでは核の撤去を要求する動きがある。しかし、縮小されたとはいえ、NATOの戦術核の存在には以下の4つの機能があるといわれる。(1)ソ連(ロシア)を抑止する、(2)アメリカの対欧関与を確実にする、(3)同盟国による独自核開発を防止する、(4)同盟国に核戦力計画への発言力を与える。現在、(4)の発言権はNATO国防相会議の核計画委員会を通して確保されている。したがって、特にロシアとの関係が悪化している状況下で、アメリカの核戦力の完全撤去は、中・東欧諸国の懸念を呼び、NATO内の対立を深めることにもなりかねない。ちなみに同諸国が、代わりに核の受け入れに関心を寄せるかもしれないが、これら諸国への配備はNATOの「3つのノー政策」(核配備を意図しない、計画しないし、その理由もない)によって禁じられている。