2015年1月7日にパリ市内にある風刺週刊紙「シャルリー・エブド」の編集局にアルジェリア系移民の兄弟2人が侵入、居合わせた編集長や風刺画家などに銃撃を浴びせて7人を殺害して逃走。同月9日にドゴール空港近くの印刷工場に立てこもり、警察との間で銃撃戦を展開した末に2人とも射殺された。一方、襲撃事件と同じ頃に別のイスラム過激派に属するアフリカ系移民が、警官を殺害した後にパリ市内のユダヤ系スーパーに押し入り、4人を射殺した後に残りの客や従業員を人質にとって立てこもる事件が発生。警察が一斉に突入して犯人を射殺するとともに、人質の解放に成功した。「シャルリー・エブド」紙編集局襲撃事件は、同紙の掲載した風刺画がイスラム教の預言者ムハンマドを冒瀆したとして、復讐を目的に起こしたとされる。ユダヤ系スーパーを襲った犯人もイスラム過激主義を信奉し、反ユダヤの心情を強く抱いていた人物とされる。これら二つの事件が表現の自由を暴力で脅かす行為として、フランスはもとより欧州全域に大きな衝撃を与え、「私はシャルリー」と書いたプラカードを掲げて犠牲者を悼む多くのデモが、欧州をはじめ世界各地に広がった。1月11日にはパリでオランド大統領をはじめ欧州各国の指導者やイスラエル首相、パレスチナ自治政府議長などを含む世界各国の指導者が抗議のデモ行進をおこない、フランスでは第二次世界大戦中、ナチスドイツからのパリ解放を祝って集まった人数を超える、370万人が表現の自由を守るためのデモに参加した。それほどフランス社会や世界に与えたこれらの事件の衝撃は大きい。この事件が与えた影響の大きさは、それだけに留まらない。表現の自由を脅かす行為として激しく批判される一方、これらの事件を通してフランスやEU域内の社会にうっ積した反移民感情や反イスラム感情にも相当に根強いものがあることもあぶり出された。事件後に表現の自由を擁護する大規模なデモが展開される一方で、反移民団体や反イスラム勢力、さらに極右勢力が欧州各地で移民排斥と反イスラムのデモを行ったのはその証左である。例えばドイツでは「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人(通称ペギーダ Pegida)」と称する団体が事件後、急速に勢力を拡大、他のEU諸国内の反イスラム感情をあおることとなった。さらに1月下旬に日本人2人がシリアで過激派組織「イスラム国」によって人質にされ、後に殺害された事件などを機に、EU内務相会議で国境管理を強化することで合意されるなど、EU域内全体を反移民と反イスラム感情が覆う環境も醸成されようとしている。