2007年9月にイスラエル空軍機がシリア領内で爆撃した施設の用途に関する疑惑問題。アメリカ政府は08年4月、議会で非公開説明会を開催し、この施設は北朝鮮の支援によって建設中の核施設だと述べた。シリアはこれを否定し、アメリカが公開した資料は捏造(ねつぞう)であるとの見解を出した。しかし、アメリカは国家情報長官による背景説明の内容を公開した。その内容は、(1)北朝鮮とシリアの協力は1997年から始まった、(2)原子炉建設は2001年から始まり07年夏に完成するものであった、(3)場所はシリア東部タイル・アズ・ザワル地方、(4)黒鉛減速ガス冷却炉(北朝鮮の寧辺と同型)、(5)寧辺の核施設の幹部がシリアを訪問している、(6)原子炉の残骸(ざんがい)や機器を撤去し、新たな建物を建設した、というものである。この説明に関しては、(1)必要な核燃料をどのようにして確保したのか、(2)プルトニウム生産を行う上での使用済み核燃料棒再処理施設がないなどの疑問が呈された。一方、同年3月、イギリスのメディアでは、北朝鮮を出港した貨物船がシリアのタルトゥース港に入港し、未加工のプルトニウムを搬入した情報を入手したため、イスラエルは空爆を決断したとの詳細な記事が発表された。このような情報が交錯する中で、国際原子力機関(IAEA)は、同年6月にシリアに調査団を送り環境サンプルを採取した。その分析結果は11月のIAEA理事会で、化学的工程を経て生産されたウラン粒子を確認したと報告され、寧辺でつくられたウランに類似しているとの結論となった。シリアと北朝鮮は、依然、調査に信頼性がないと主張している。この間、ドイツの情報局の分析として、同施設はシリアと北朝鮮がイランの核開発を支援するためにつくった核関連施設であったとの報道も流れた。シリアの核疑惑の解明はこれまでのところ難しそうであるが、核拡散の懸念を国際社会が強めた問題である。