イスラエル社会が変化し、リベラルな民主主義が変質しつつある状況。イスラエルを建国したシオニズム運動は、世俗的な民主国家をめざした。内政に限れば、イスラエルの政治文化はラディカルな民主主義が根づいていた。国内では右派と左派が激しい議論を繰り広げ、西洋型の民主主義が維持された。他方、イスラエル国内には、宗教に基づき厳格な規律の中で生活する宗教勢力も存在した。生活様式や価値観がまったく異なる世俗勢力と宗教勢力は、建国以来、常に緊張関係にあった。2009年に成立したネタニヤフ内閣では、連立する宗教政党や極右政党の発言力が増大した。その結果、政策に宗教色や民族主義的な色彩が強まっている。世俗派のイスラエル人たちは、民主主義の伝統が危機に瀕していると感じるようになった。また内向化、右翼化、宗教化するイスラエル社会と在外のユダヤ人との関係も悪化している。伝統的に親イスラエル的だったアメリカやヨーロッパ諸国は、変化するイスラエルに心理的な距離を置きつつある。