国連統計によれば、2005年の世界のHIV/AIDS感染者総数3860万人中、3分の2がサハラ以南アフリカに集中、これによる死者は220万人に達している。南部アフリカでは感染率がきわめて高く、なかでもボツワナとスワジランドでは35%以上に達している。HIV/AIDSが広範かつ急速に広まった背景には、極度の貧困と、しばしば武力紛争にまで発展するアフリカの社会状況の悪化が挙げられる。エイズの拡大は、農村部での働き手の減少による農産物生産の低下、出稼ぎ世帯や勤労世帯での所得減少、さらには孤児の増大など、深刻な社会問題となっている。こうした危機に対して国際的取り組みが本格的に開始され、01年、国連エイズ特別総会が開かれた後に世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)が創設された。しかし先進諸国の資金拠出が財政難を理由に順調に実現せず、国連エイズ特別総会で採択された数値目標達成が危ぶまれている。一方で、患者の治療薬へのアクセス拡大を目的とした安価なコピー薬の、アフリカ諸国による輸入は、世界貿易機関(WTO)の知的所有権保護条項に抵触するとして先進国の薬品会社の抗議を受けた。この問題は、先進国と途上国の「命の値段」格差を示す南北問題の性格を強く持っている。