2011年以降内戦状態が続くシリアへの外国人戦闘員の流入については、西欧からの流入が注目を集めているが、旧ソビエト連邦(ソ連)圏からの流入も無視できない。諸説あるが、シリアに流入しているチェチェン系戦闘員の数は数百人から2000人規模に上るとされる。流入の背景には、宗教的な動機のほかに反ロシア感情(ロシアはシリアのアサド政権を支援している)もあるとされる。チェチェン独立派の流れをくむ北カフカスのイスラム武装組織「カフカス首長国」は、当初こうしたチェチェン人のシリアへの流入について、特に自派の戦列からの離脱が北カフカスでの闘争を弱化させるとして肯定的な評価をしてこなかったが、チェチェン系戦闘員の「戦果」や流入の継続を受けて、戦闘員の軍事訓練場としてシリアをとらえ、彼らを自派の統制下に置く方針に転じた。シリアで活動する武装組織で、チェチェン系戦闘員が主力を占める「ムハージルーン・ワ・アンサール軍」は「カフカス首長国」に忠誠を誓い、アルカイダ系の「ヌスラ戦線」と共闘している。しかし「カフカス首長国」が在シリアのチェチェン系戦闘員すべてを統制下に置いているわけではない。チェチェン系ジョージア人(ジョージア〈旧称グルジア〉領パンキシ渓谷出身のキスト人)で「ムハージルーン・ワ・アンサール軍」司令官であったアブー・ウマル・シシャーニーは、「イスラム国」(IS)との関係をめぐって他のチェチェン系戦闘員と袂を分かち、「イスラム国」に合流、14年夏以降「イスラム国」のシリアでの軍事部門の責任者を務めているとみられる 。また、近時は北カフカス各地で「カフカス首長国」の地方責任者の一部が新たに「イスラム国」に忠誠を誓う事例が出てきており 、北カフカスにおける対ロシア武装闘争に新たな局面が生まれつつある。