国際教育到達度評価学会(IEA)が1995年に実施した第3回国際学力調査(TIMSS)や経済協力開発機構(OECD)が2000年に実施した国際学習到達度調査(PISA)の結果は、TIMSSインパクト、PISAショックと言われ、各国の教育政策に大きな影響を及ぼしてきた。TIMSSでは、中2の数学では1995年調査以来、99年、2003年、07年と、シンガポール、韓国、香港、台湾(1995年は不参加)、日本が、5位までを占めてきた。他方、PISAでは、日本は2000年、03年、06年と順位を下げてきたが、09年調査ではやや向上し、科学は全参加国中2位→2位→6位→5位(OECD加盟国中では2位→2位→3位→2位、以下同様)、数学は同1位→6位→10位→9位(同1位→4位→6位→4位)、読解力は同8位→14位→15位→8位(同8位→12位→12位→5位)だった。09年調査では、新たに参加した上海が科学、数学、読解力のすべてで、2位以下を大きく引き離して1位、同じく新たに参加したシンガポールも数学2位、科学4位、読解力5位となり注目された。フィンランド以外では、韓国、香港、台湾、日本、上海、シンガポールが上位を独占する結果となったが、TIMSSでも同じ東アジアの国・地域が上位を独占している。いずれも経済成長著しい国や地域であることからも注目されているが、成績上位を占めている背景には、受験競争が激しく学習塾など学校外教育が非常に盛んな国・地域であることや、いわゆる「新しい学力観・学習観」に立つ授業方法が徐々に広まっているものの、古典的な系統学習・習得学習のウエートが高いことなどがあると考えられる。ユニセフ(国連児童基金)も先進24カ国を対象に基礎学力水準の達成度に関する調査を実施したが(03年11月に結果を公表)、同水準未達成の生徒の比率が最も低かったのは韓国で1.4%、日本は2位で2.2%であったが、日本はTIMSSやPISAで低学力層が増加傾向にあることが今後の課題として重要である。特にPISAの結果は、最近の「学力低下」論に拍車をかけ、「学力重視」政策推進の根拠となり、もう一方で、同調査は文部科学省が07年から実施してきた全国学力テストでB問題(「活用」学力)を設定した根拠にもなってきた。TIMSSとPISAは重視する学力観が異なり、前者は各教科の内容の系統学習・習得学習を重視しているのに対して、後者は実生活のさまざまな場面で学習内容を活用できるかどうか(リテラシー)を重視しているが、TIMSS とPISAのトップクラスの国が共通であることは、両者が本当に違う学力を測っているのかという疑問を抱かせるに十分である。そして、この疑問は、文部科学省の全国学力テストのA問題(「知識」学力)とB問題(「活用」学力)は本当に違う学力を測っているのかという疑問にも通じるものである(A問題とB問題の相関の値は、算数・数学でも国語でも、また、小6でも中3でも、0.7~0.8強とかなり高い)。この疑問点とテスト学力重視の傾向を強めていることの是非は検討すべき重要な課題である。