市町村教育委員会は小中学校の児童・生徒の就学校を指定することになっている(学校教育法施行令第5条2項)が、不登校の増大や「画一教育」を問題視する議論の高まりを背景にして、東京都区部を中心に学校選択制を導入する自治体が増えている。1997年、旧文部省は従来から認められていた地理的・身体的理由に加え、いじめへの対応など相当の理由がある場合、保護者の申し出により同一市町村内の他の学校への就学(就学校変更)や他市町村の学校への就学(区域外就学)を認める「通学区域制度の弾力的運用について」を通知した。しかし、2002年3月の閣議決定「規制改革推進3カ年計画(改定)」で、市町村教育委員会の判断により学校選択制を導入する場合の手続きや、保護者・児童生徒が就学校を変更する場合の手続き等を明確化すべしとの方針が示されたことを受けて学校教育法施行規則が一部改正され、03年4月より、市町村教育委員会は就学校の指定に先立って保護者の意見を聴取することが可能になった。06年度現在で、なんらかの学校選択制を導入しているのは小学校で240自治体(14.2%)、中学校で185自治体(13.9%)となっているが、そのうち圧倒的に多いのは、通学区域設定の非合理性を解消するために特定地域の居住者にのみ学校選択を認める「特定地域選択制」(小学校108自治体、中学校66自治体)と児童・生徒数の減少が著しい地域で学校を存続させるために特定の学校についてのみ通学区域外からの選択入学を認める「特認校制」(小学校88自治体、中学校41自治体)といった従来の通学区域を残した形態であり、市場原理主義的な考え方に基づく自由選択制・ブロック別選択制を導入しているのは、首都圏を中心に、小学校で29自治体(04年時点では37自治体)、中学校でも57自治体(04年時点では48自治体)にとどまっている。学校選択制は「選べることはいいことだ」として安易に歓迎されがちであり、安倍政権時の教育再生会議や規制改革会議などは学校選択制の全国展開と教育バウチャー制の導入を提言し続けてきたが、小中学校の序列化や選択の名の下に社会的差別が学校に持ち込まれかねないだけに、その導入については慎重な検討が必要である。