ユニバーサル化はアメリカの教育社会学者・高等教育研究者マーチン・トロウ(カリフォルニア大学バークレー校教授、2007年没)が1973年の論文で提唱した概念。高等教育は「エリート段階(就学率:15%未満)→マス段階(50%未満)→ユニバーサル段階(50%以上)」へと量的に拡大するに伴い、教育の目的・機能、内容・方法、学生の選抜基準や組織特徴が質的に変容するとした「トロウ・モデル」は、その後の高等教育研究や政策に大きく寄与した。日本では、70年代から「高等教育の大衆化」とその影響や課題が盛んに論じられるようになって以来、ユニバーサル段階に入った現在でも「大衆化」の表現が用いられているが、高等教育研究者の多くは、「ユニバーサル化」や「ユニバーサル・アクセスの段階・時代」という表現を使っている。エリート段階では、エリート的資質・素養の形成、能力主義的選抜、個人指導・少人数指導や師弟関係重視のチューター制・ゼミナール制、小規模の同質的な閉じた大学、長老教授による寡頭支配などが特徴となっていた。マス段階では、専門分化したエリートや社会の指導者層の育成、能力主義と教育機会の均等原理による選抜、大規模クラスでの講義と補助的なゼミナール、大規模な総合大学・官僚制的組織、社会に開かれた大学、長老教授に加えて若手教員や学生の参加による民主的支配などが特徴となる。ユニバーサル段階では、進学する学生の学力・興味関心や卒業後の進路が非常に多様化し、学部・学科や教育課程・学習方法なども多様化し非構造的になり、テレビ・コンピューター・通信機器の活用も拡大し、大学と社会の境界も弱まり社会人入学も増え、大学の管理・運営は管理専門職や学外者の支配・影響力が強まる(トロウ著「高学歴社会の大学」東京大学出版会1976年)。アメリカの高等教育は60年代後半にユニバーサル段階に入ったが、日本の場合、77年に短大・高専・専門学校を含む高等教育進学率が50%を超えてユニバーサル段階に入り、2011年度は79.5%となった。大学進学率は09年に50%に達し、11年度は進学率51%、大学数783校となっている。こうした大学進学率の上昇と学生の学力の多様化、就職状況の悪化、1991年の大学設置基準の大綱化(規制緩和)以降のカリキュラム・授業科目・学修方法の多様化などを背景にして、90年代後半以降、大学生の学力低下(例えば「分数ができない大学生」東洋経済新報社1999年)と大学教育の質の保証が問題視されるようになり、種々の大学改革が進められることになった。例えば、高等教育の水準向上・質保証を目的として国公私立の大学・短大・高専はすべて7年以内ごとに第三者機関(大学評価・学位授与機構、大学基準協会、日本高等教育評価機構)による認証評価を受けることが義務化され、個々の大学レベルでも多くの大学で、新入生を対象にした初年次教育や学力不足を補うためのリメディアル教育(補習教育)の実施、1年次からのアドバイザー制・チューター制の導入、学生参加型の授業や体験学習やボランティア活動の拡大・奨励など種々の改革・改善が進められるようになり、また、大学設置基準の改正により2011年度より各大学の判断と方法によるキャリア教育(ガイダンスを含む)の実施も義務化されることになった。上記以外にも、大学の管理運営・情報公開・社会貢献や社会人入学の促進などの面でもトロウ・モデルのユニバーサル段階の特徴に合致する種々の改革や変化が進んでいる。