小学校6年と中学校3年の教育に一貫性を持たせる教育を小中一貫教育、その教育を一つの学校で行っている場合を施設一体型の小中一貫校という。また、小学校と中学校が連携して9年間の義務教育に一貫性を持たせる種々の取り組みを行うことを小中連携教育(施設分離型の小中一貫教育)という。小中一貫教育・連携教育は、国立大学付属学校や私立学校では早くから行われていたが(併設型小中一貫校)、公立学校では、一部の過疎地の学校を除いて、小中一貫教育は行われていなかった。しかし、1980年代以降の校内暴力・いじめの深刻化、不登校の増加傾向を背景にして学校教育の在り方が問い直されるようになり、そして2000年代になると、それらの問題現象の一因は「中一ギャップ」にあるという見方が広まるようになる中で、05年と08年の中央教育審議会答申、07年の教育再生会議・第3次報告や08年『教育振興基本計画』(閣議決定)が小中一貫教育の推進や制度化を提言した。こうした提言が相次ぐ中、例えば東京都品川区は06年度から施設一体型の小中一貫校を開校し始め(11年4月までの開校は5校)、併せて区内の全小・中学校で施設分離型の小中一貫教育(実質的には小中連携教育)を開始した。東京都三鷹市や京都市などでも施設一体型や施設併用型の小中一貫校の開校や施設分離型の小中一貫教育を進めている。こうした小中一貫教育(小中連携教育を含む)は、(1)9年間の義務教育を教育課程面や教育指導面で一貫性のあるものにし、教育の効率性と質の向上を図る、(2)学級担任制の小学校と教科担任制の中学校の違いなどによる小学校から中学校への移行(進学)をスムーズにし、「中一ギャップ」と言われるストレスや適応上の困難の解消を図る、といった目的で進められているが、施設一体型の小中一貫校を開校した地域では、児童数の減少が進む中で特に小学校の統廃合を進めざるを得ないという事情を抱えている場合もある。いずれにしても、小・中学校段階の教育を8年制ないし9年制の学校(施設一体型の小中一貫校)で行う例は、諸外国では、一部の私立学校を除いて、非常に少ない。例えばアメリカの場合、20世紀半ばの時点で、戦後日本の学校体系のモデルになった「6・3・3制」(小学校6年、ジュニア・ハイスクール3年、シニア・ハイスクール3年)が約3割、「8・4制」(小中の教育8年、ハイスクール4年)が5割強、その他が2割弱であったが、1960年代以降、それまで「8・4制」だった地域を中心に「5・3・4制」(小学校5年、ミドル・スクール3年、ハイスクール4年)に移行し2割強を占めるようになったこのミドル・スクールの増加は、発達面で種々の難しさを抱える思春期の子どもたちにきめ細やかなケアと学習環境を提供することを主な目的とするものであった。こうしたアメリカでの「5・3・4制」の拡大(ミドル・スクールの増加)なども踏まえると、施設一体型の小中一貫校は、思春期の難しさへの対応という点で有効かどうかは疑わしく、さらなる検討が必要である。他方、ヨーロッパでは小学校6年(ないし7年)、中等教育学校5年(ないし専攻科などを含めて6年)の国が多いが、ドイツやフランスをはじめ、小学校を学校内で前半と後半に分けている国も多い。また、中等教育学校も子どもの発達段階の違いや進路の分化などを考慮して前半と後半に分けている国や休み時間に校庭を高学年用と低学年用に分けている学校もある。日本では、高校入試の弊害を除去し6年一貫の充実した教育が可能だという理由で公立の中高一貫校・中等教育学校も政策により増えているが、小中一貫校も含めて、諸外国とは逆方向の制度改革が進められていると言える。