2013年10月、教育再生実行会議は大学入試改革に関する「提言」をまとめ、安倍晋三首相に提出した。高校教育の質向上と大学の人材育成機能の強化、及び大学入学者選抜方法の改善を一体的に図るために、1990年から実施されてきた大学入試センター試験(センター試験)を改編し、新たに「基礎レベル」と「発展レベル」の二種から成る「達成度テスト(仮称)」を実施するというもので、14年3月現在、5年後の実施をめどに中央教育審議会(中教審)において具体的な制度設計(実施方法)が検討されている。その骨格は上記「提言」の内容と基本的には同じである。同提言や14年3月7日までの中教審での審議資料によれば、「達成度テスト(基礎レベル)」(仮称)は、高等学校卒業程度認定試験(旧大学入学資格検定)との統合も視野に入れ、主要な教科・科目(国語、数学、外国語〈英語〉、地理歴史・公民、理科)について高校での学習の到達度を客観的に把握するもので、主に2~3年生を対象に(1年生も受験可とする)年2回程度実施される。試験内容は「基礎的・基本的な知識・技能だけではなく、知識・技能の活用力、思考力等を測る問題も含める」もので、高校単位と個人単位で受験できる。高校での指導改善に生かし、併せて、各大学の推薦入試・AO入試での活用も促進するとしている。「達成度テスト(発展レベル)」(仮称)は、「大学教育を受けるために必要な『主体的に学び考える力』等の能力を測ること」を主目的とするもので、主に大学入学志願者を対象に、年複数回実施し、成績は素点に加えて「段階別や標準化点数、百分位等による提供」も検討中である。試験内容については「知識・技能の活用力等を見るため」に各教科の内容を融合した「合科目型」や「総合型」の出題とする方向で検討中だが、基礎的・基本的な知識・技能を確認するための「教科型」についても基礎レベルとの兼ね合いを考慮し、さらに検討するとしている。最終的にどうなるかは定かでないが、要するに、高校在学中に高校の学習達成度を測る基礎レベル試験と、大学での学習に必要な総合的能力を測る発展レベル試験をそれぞれ複数回受験し、その両方の結果が大学入学者選抜の判定材料になるということである。そして各大学はその成績に加えて、面接・論文や高校までの種々の経験により、学習意欲や適性を評価して合否判定するというのである。こうした改革案については賛否両論あるが、例えば中教審でも参考資料として配布された、ベネッセ教育総合研究所が上記「提言」公表1カ月後に、無作為抽出した全国の高校の校長1228人と大学の学科長2015人を対象に実施した調査の結果では、(1)現行制度に近い「共通試験を基礎とした上で各大学が多面的な評価を加えて実施する入学者選抜」に対する賛成(「賛成」+「どちらかと言えば賛成」)は高校が63%、大学が60.7%、(2)「『達成度テスト(基礎レベル)』の推薦・AO入試への活用」に対する賛成は高校46.9%、大学48.3%、(3)「基礎レベル・発展レベルの2種類の『達成度テスト』導入」に対しての賛成は高校27.2%、大学37.4%だった。つまり(1)の現行に近い制度への支持が6割強で最も多く、次いで複数回受験可となる点で現行制度の部分的改善にも見える(2)の基礎レベル達成度試験の支持が5割弱である。これらに対し、(3)の2種類の達成度テスト実施の支持は高校3割弱、大学4割弱で最も少ない。この結果は、(3)ではテスト過剰となり、高校の教育・課外活動や高校時代の過ごし方に様々な悪影響を及ぼすという判断や、実施主体が改組される予定の大学入試センターであるにしても、高校や、特に大学にとって、新テストへの協力に伴う負担が格段に増えることになるとの予想を反映したものであろう。他にも種々の批判や問題点が挙げられるが、例えば、大学入試に利用されるテストである以上、それらのテスト対応を売りにする学習塾も増えるであろうから、結局、テスト対応学力は高まっても、改革推進勢力が期待するような豊かな学力・能力の向上にはつながらないどころか、かえって低下する可能性もある。また、家庭の経済力等による教育格差がいっそう拡大しかねない。加えて、新テストの諸経費を国が負担するとすれば財政悪化のさらなる一因にもなり、部分的であろうとも受験料によって賄うことになるなら家計への負担が増え、特に経済的に厳しい家庭には重大な問題となるであろう。