ベーシックインカムとは、政府が全国民に保障する最低限の所得のことである。所得が十分でない貧困世帯に不足する所得を補う通常の扶助制度(生活保護のような制度)では、ミーンズテスト(means test 資力調査)が避けられない。また、就労による収入額が扶助額から差し引かれるために、勤労意欲を妨げるデメリットもある。こうした選別的な給付の問題を克服するために考えられた所得保障の仕組みがベーシックインカムである。高所得者も含めて全国民に一律に支払われるベーシックインカムの支出は巨額となるため、それを賄う国民の税負担も多額となる。高い税率が国民に受け入れられるかどうか、また制度の趣旨に反して、人々の勤労意欲が阻害されることになりはしないかなどの問題が指摘されている。
かつてはソーシャル・ディビデンド(social dividend 社会配当)などと呼ばれ、ベーシックインカムの考え方そのものは決して新しいものではないが、最近再び注目されるようになった背景には、正規雇用が減って就労が多様化され、短時間や低賃金など多様な働き方に対応できる所得保障制度が求められるようになったことがあげられる。この制度があることで、使用者は労働者をどのような賃金でも雇うことが可能となるので、使用者の側からの支持も少なくない。
同様の考えとして、ミルトン・フリードマンが提唱した「負の所得税」があるが、負の所得税は、所得が十分でない世帯に所得税を課す代わりにその不足分を給付しようとするもので、国の支出を貧困救済に限定し、普遍的な制度をこれで置き換えて小さな政府を実現しようとする制度である。ただ、低所得の状態はその時点で解消される必要があるので、所得税を課税する段階で不足を補うのでは有効でなく、負の所得税はフリードマンが考えたような形では実現しなかった。代わりにそのアイデアは、有子低賃金世帯や障害者、年金受給者等のための特定対象者ごとのタックスクレジット(給付付き税額控除)制度などに生かされるようになった。ベーシックインカムは、タックスクレジットとの関係でいうと、個別対象者ごとの所得維持を目指す制度を一つの所得保障制度に統合するものであるといえる。日本にはタックスクレジットの考えを用いる給付制度はまだない。