社会保障の抜本的な改革案と、それに必要な財源確保策とを一体的に提示することにより、社会保障の安定・強化を図りつつ消費税増税への道筋を提示することを目的とする、民主党の社会保障・税制改革案。2010年12月に菅首相は「社会保障改革の推進について」を閣議決定し、有識者からなる「社会保障改革に関する集中検討会議」、「政府・与党社会保障改革検討本部」を設けて議論を進め、11年6月に「社会保障・税一体改革成案」を決定した。成案は、非正規雇用の増加などの新しい社会経済情勢に対応した中規模・高機能な社会保障体制を目指すべく、優先順位として(1)子ども・子育て支援、若者雇用対策、(2)医療・介護等のサービス改革、(3)年金改革、(4)「貧困・格差対策」「低所得者対策」を挙げた。これに必要な安定財源を確保するため、消費税収は年金、医療、介護、少子化の社会保障4経費にすべて充てることとし、消費税の引き上げ時期について「2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げる」こととした。この成案をもとに関係審議会や民主党内で議論が進められたが、民主党内にも消費税の引き上げ等で大きな意見の開きがあり意見集約は難航した。菅首相退任後、一体改革の推進を重視する野田氏が首相に就任、野田内閣は改革成案を具体化した「社会保障・税一体改革素案」を12年1月6日に決定した。素案の主な内容は次のとおり。税制の改革として、(1)消費税を14年4月に8%に、15年10月に10%に引き上げ、これに伴う低所得者対策として給付付き税額控除制度を15年以降に導入する。(2)所得税の最高税率を現在の40%から15年1月45%に引き上げる。(3)証券優遇税制を廃止し、相続税の課税を強化する。社会保障のうち年金では、(1)物価下落時に据え置かれた年金支給額を本来水準に戻す(減額する)。(2)パート労働者に厚生年金の適用を拡大する。(3)高所得者の基礎年金を最大月3.3万円減額、低所得者の支給額を最大1.6万円上積みする。受給資格期間を25年から10年に短縮する。医療・介護では、(1)低所得者の国民健康保険料を軽減する。(2)所得の低い高齢者の介護保険料を軽減する。(4)低所得者の高額医療費の負担上限を引き下げる。(5)会社員の介護保険料負担の算定を総報酬割りにする。子育て支援では、幼保一体化など新しい子育て支援制度を発足させる。なお、12年2月、政府は「社会保障・税一体改革大綱」を閣議決定、8月には関連8法案が成立した。