プライバシー権が侵害されたかどうかを争う裁判である。プライバシー権は、憲法上の人格権として保障される点では名誉権と共通するが、名誉毀損罪に対応する、たとえば「プライバシー侵害罪」のような犯罪は刑法に定められていない。そこでプライバシー訴訟では、主に民事上の不法行為責任が問題になる。プライバシー権は、三島由紀夫の私小説が特定人の私生活を公開している点で違法かどうかが争われた「宴のあと」事件で、東京地裁が初めて認めた。判決では、プライバシー権を、私事(私生活にかかわる事柄)をみだりに公開されない人格権としている(1964年9月28日判決)。その後、情報化社会の進展にともない、プライバシー権は、私事への不干渉という消極的な権利から、自己情報をコントロールし、その訂正・削除を請求できるという積極的な権利として捉え直されるようになった。個人情報保護法(2005年)はそのようなプライバシー権を保護する法律である。インターネット上の掲示板に個人情報を書き込むことがプライバシー権侵害になることも少なくない。たとえば、ネット上の掲示板に、ある眼科医が氏名、職業、診療所の住所や電話番号等の個人情報を書き込まれたことで、無言電話やいたずら電話が続き、診療を中止せざるを得なくなった事件で、そのような個人情報を書き込んだ者に180万円余りの損害賠償責任が認められた例がある(神戸地裁1999年6月23日判決)。