債務者が義務を果たさないときに、義務内容を国家権力が直接、強制的に実現すること。離婚後に一方が親権をもつ他方の親に子どもを引き渡さないとき、家裁の審判に基づいて直接強制を行う例が増え、その数は2010年に120件に達している。しかし、「内容を強制的に実現する」ことには、物の引き渡しを拒む債務者に対して執行官が腕ずくで取り上げたり、警察力を動員して抵抗を排除する態様を含む。そこから、物と幼児とを同一視するのは人格尊重の点から不適切だとの意見もあり、子の引き渡しに直接強制を認めない地裁判決もある。子の引き渡しにおける直接強制の運用実態は明らかでない。ただ、執行官が腕ずくで直接強制を行っていればその成功率は100%に近いはずなのに、10年に実施された120件のうち、直接強制によって子どもが引き渡されたのは58件という。直接強制の現場では、子どもの福祉に配慮しながら、裁判所の判断だから応じるように説得すること、子どもが1人でいるところを確保し、取り返そうとする債務者を思いとどまらせることなど、説得と働きかけに終始しており、腕ずくで取り上げるような実態ではないようである。