NHK職員による制作費の流用などの不祥事が相次いで発覚したことをきっかけに、NHKに対する国民の不信感が高まり、それが受信料の不払いを急増させたことを契機に、かねてから指摘されてきた組織の肥大化がもたらす弊害を改めることを目的にしたNHK改革が検討課題となった。NHKのガバナンス(企業統治)の強化と組織のスリム化、さらに通信と放送が融合する時代にふさわしい新しい通信・放送制度を確立することを目的にして、小泉純一郎内閣時代に竹中平蔵総務相(当時)の私的諮問機関である「通信・放送の在り方に関する懇談会」が設置され、NHK改革の議論が本格化した。その中心課題の一つとしてNHKの民営化を視野に入れていたが、小泉首相の考えを受けて民営化は検討課題から外され、最終報告書ではNHK改革の動きはトーンダウンした。現状では、NHK改革を巡る動きは、新しく強化された経営委員会によるガバナンスの徹底に委ねられている。受信料不払いの動きの鎮静化に水を差す事件として、NHK記者らのインサイダー取引が発覚した。2008年1月17日、NHKは報道局記者ら3人が証券取引法(現・金融商品取引法)におけるインサイダー取引容疑で、証券取引等監視委員会によって調査されていることを発表した。これら3人は企業の資本業務提携に関する特ダネ情報を、原稿システム端末などによりニュースとして放送される前の段階で入手し、ネット取引により株を購入し、利益を得ていた。NHKは翌18日、全職員および原稿システム端末にアクセスできる契約スタッフについての調査を決めた。21日、橋本元一会長は記者会見で、古森重隆NHK経営委員長に辞意を伝えたことを明らかにした。22日付でコンプライアンス担当の畠山博治理事と報道担当の石村英二郎理事が辞任した。3月19日、金融庁はインサイダー取引を行った3人に計49万円の課徴金納付命令を出した。この問題を調査したNHKの第三者委員会は、プロ意識があまりにも低いNHKの体質を厳しく指摘した。